大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1139号 判決 1985年12月25日

甲事件控訴人・乙事件被控訴人(被告)

サンタクシー株式会社

乙事件控訴人・甲事件被控訴人(原告)

岩居享こと岩居亨

甲事件被控訴人(原告)

岩居肇

ほか一名

主文

一  原判決中、甲事件被控訴人(第一審原告)岩居亨に関する部分を次のとおり変更する。

1  甲事件控訴人(第一審被告)は、同事件被控訴人(第一審原告)岩居亨に対し金二五二四万四九三九円及びこれに対する昭和五四年一二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  甲事件被控訴人(第一審原告)岩居亨のその余の請求を棄却する。

3  前1項は仮に執行することができる。

二  乙事件控訴人(第一審原告)岩居亨の控訴及び甲事件控訴人(第一審被告)の同事件被控訴人(第一審原告)岩居肇、同岩居はつ江に対する控訴をいづれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を第一審被告の、その余を第一審原告らの各負担とする。

事実

第一  双方の申立て

一  甲事件

控訴人(以下、第一審被告という。)は、「原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人(以下、第一審原告という。)らは、控訴棄却の判決を求めた。

二  乙事件

控訴人(以下、第一審原告亨という。)は、「原判決中、控訴人に関する部分を次のとおり変更する。被控訴人は、控訴人に対し金七四八四万一六四五円(請求の減縮)及びこれに対する昭和五四年一二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人(以下、第一審被告という。)は、控訴棄却の判決を求めた。

第二  当事者双方の主張は、次のとおり補足するほかは原判決の事実摘示と同一(ただし、岩居享をすべて岩居亨と、原判決添付損害目録1(5)の「退院」を「通院」と、同「日立」を「国立」と各訂正する。)であるから、これをここに引用する。

一  第一審原告ら

1  損害額について

乙事件における第一審原告亨の不服対象は、次の費目につき、第一審原告亨の当審主張合計一億一〇〇三万〇一〇五円と原判決認定額(過失相殺前)六二〇三万三四六四円との差額四七九九万六六四一円に過失相殺率七割を乗じた金額三三五九万七六四八円である。したがつて、本件総請求額を右額と原判決総認容額四一二四万三九九七円との合計七四八四万一六四五円に減縮する。

(1) 損害者用自動車購入費及び免許取得費用(金額は、前者につき二〇〇万円と訂正する。後者は原判決別紙損害目録記載のとおりである。以下、この点につき同じ。)

第一審原告亨は、本件事故により両下肢が一切使えない状態となつたので、正常な形に少しでも近づくためには、現在、将来とも自動車が必要である。障害者用の特別仕様部分にかかる費用のみが損害であるとすれば、その額は、一台につき一一万五〇〇〇円から一三万円であり、耐用年数は、一般に四、五年である。

(2) 将来の看護料

後遺症の慰藉料、逸失利益と将来の看護料とは全く性質が異なり、一方を認めたからといつて、他方を認めなくてよいという関連性はない。

第一審原告亨は、入浴や用便等日常生活上、親ないし第三者の介助を不可欠とするものであり、第三者の介助の費用は、一日三五〇〇円を下らない。

(3) 将来の治療費

第一審原告亨は、脊髄損傷、両下肢麻痺、膀胱直腸障害により月一回の定期診察と年一回の腎臓造影検査が生涯必要である。

(4) 将来の車椅子・歩行装具費用

車椅子の耐用年数は、三年で、現在一台一〇万円である。したがつて、第一審原告亨の平均余命について必要な車椅子の現価を、年別ホフマン係数を用いて計算すれば、総額八七万三四六一円(26.20385×100,000÷3=873,461)となる。

(5) 休業損害

第一審原告亨は、本件事故がなければ、高校を卒業し、大学に進学していた筈であるのに、学業の継続が不可能になつたため、逸失利益の計算においては、大学卒ではなく高校中退または高校卒の扱いしか受けないことから、その差は、概算で一八〇〇万円にもなる。

したがつて、第一審原告亨は、無職者ではあつたが、本件事故により学業の継続が不可能となつたために少なくとも二〇〇万円の休業損害が生ずるものと評価すべきである。

(6) 逸失利益

第一審原告亨の後遺症の固定時期は昭和五六年五月二一日であるから、逸失利益は、昭和五六年の賃金センサスを基礎とすべきである。これによれば、全男子労働者の平均年収は三六三万三四〇〇円であるから、これに原判決のライプニツツ係数を乗ずると六六〇一万四一五四円となる。

(7) 第一審被告主張の損益相殺を争う。

2  第一審被告主張の無過失ないし過失相殺の抗弁に対する第一審原告らの反論

(第一審原告亨運転の自動二輪車(以下、被害車という。)の速度等)

(1) 被害車の速度は、目撃者の庭野均もそれは時速四五キロメートルぐらいと述べており、多くとも時速五〇キロメートルであつて、第一審被告の後記主張のような高速ではなかつた。

(2) 第一審被告の後記主張のような手法で被害車の速度を検討するに際しては、目撃者庭野均運転の自動二輪車(以下、目撃車という。)、立屋清運転の本件タクシー(以下、加害車という。)、被害車のそれぞれの発進時の状況を検討しなければならない。

すなわち、被害車は、横浜銀行弘明寺支店前交差点(乙第三号証の見取図)を先頭で発進したのに対し、目撃車は鈴木洋服店前の交差点(乙第四号証の見取図)の停止線から一六メートル後ろに停止していて、前から三台目ないし四台目で発進し、かつ、左側の駐車車輌をよけながら発進したのであり、また、加害車は、鈴木洋服店前の交差点で前から三台目で信号待ちしていて発進したものである。したがつて、目撃車及び加害車は、発進するまでに空費時間があり、この点を考慮した上で被害車との比較をしなければならない。

(3) 第一審被告は、乙第四号証の見取図によつて、被害車が目撃車を追い越してから加害車に追い付いた距離と、目撃車が右追越地点から危険を目撃した地点までの走行距離とを基礎に被害車の速度を試算しているが、右見取図と乙第二号証の見取図とでは、目撃車が危険を感じた地点の指示がかなり異なつているところ、後者の方が電柱が記載されていて具体性があり、しかも事故直後の生々しい記憶によるものであるから、信頼性がある。これによれば、目撃車の速度を時速三五キロメートルとすると、被害車の速度は時速五三・九キロメートルとなる。

(4) ブレーキをかけるまでの知覚及び反応時間を考慮すれば、被害車が加害者のウインカーを目撃してからブレーキまで約一〇メートルあつても、ウインカー無視かスピードの出し過ぎであると断定することはできない。

(加害車の過失)

(1) 加害車は、緩徐な減速をしたのではなく、急激に減速し進路変更をしたのである。

(2) 加害車の幅寄せは、ウインカーを出して左に寄つた地点が歩道端から四・一メートル、停止地点が歩道端から三・二メートルである(乙第二号証)から、〇・九メートルであり、決して小さいものではない。更に、加害車は、歩道に対し傾斜して停止しているから、更に歩道側に車を寄せようとしていたのである。また、第一審原告らのいう「急転把」とは、左ウインカーの点滅と同時に左に転把したということである。

(3) アスフアルト舗装の乾燥した路上の時速四〇キロメートルの車両の制動距離が一一・二三メートルであることに照らし、加害車は、乗客を乗せるために、急転把と同時に急停止も行つていることは明らかである。

二  第一審被告

1  損害額について

(1) 障害者用自動車購入費及び免許取得費用

現在の自家用自動車の利用率に照らし、本件事故がなくとも第一審原告亨が将来運転免許を取得したり、自動車を購入したりする蓋然性は高いのであるから、その主張する費用は、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害とはいえない。

(2) 将来の看護料

慰藉料は、現在、財産的損害填補の足らない部分等の補完や調整をする損害項目として機能している。

第一審原告亨の慰藉料算定の最も重要な要素は、同人が本件負傷により活動領域が狭まり、今後数十年にわたり日常生活上における介助にまで及ぶ広い意味での他人の手助けを受けなければならないことであるが、原判決もこの点を十分斟酌しており、また、第一審原告亨は、自動車免許も取得し得たし、青年期にある同人が日常生活上の起居の繰り返し等により代償機能が発達しえないこともないことを併せ考えると、右他人の介助の必要性もさほどのものではなく、更に、将来に亘つて労働能力を一〇〇パーセント喪失したと断定できるかは疑問であり、将来の看護料は、原判決認定の後遺症慰藉料や逸失利益の賠償額によつて評価し尽くされている。

(3) 将来の治療費

その主張する検査等が固定した症状を保存し、悪化させないためのものとはいえない。

(4) 将来の車椅子等

用具の耐用年数は、技術的進歩等により左右されるし、将来の用具の損害額算定については、中間利息の控除もしなければならない。

(5) 休業損害及び逸失利益

第一審原告は、本件事故当時、高校二年生であつたから、休業による経済的損失はなく、労働能力喪失による逸失利益の算定に際し、その就労可能時期を高校卒業時として全年齢平均賃金を基礎とするか、大学卒業時として大学卒男子平均賃金を基礎とするかのいづれかで処理されるべき事柄である。

(6) 損益相殺

第一審被告は、昭和五九年五月二三日、被害車の所有者である原達夫に対し、右車の修理代四万三六〇四円を支払つたので、これを損益相殺すべきである。

2  無過失ないし過失相殺の抗弁

(被害車の高速度と不用意な接近等)

(1) 目撃車が鈴木洋服店前交差点から発進して、一つ手前の横浜銀行弘明寺支店前交差点(両者は、ほぼ同時に信号が青になる。)から発進した被害車に追い抜かれた地点までの双方の走行距離から検討した被害車の目撃車に対する速度の割合、鈴木洋服店前交差点を発進した加害車が前同弘明寺支店前交差点を発進した被害車とが殆ど同位置になつた地点までの双方の走行距離から検討した被害車の加害車に対する速度の割合、更に被害車が目撃車を追い抜いてから加害車に追い付くまでの被害車と目撃車との双方の走行距離から検討した被害車の目撃車に対する速度の割合からみて、被害車は、目撃車及び加害車の速度の約二倍の高速度で走行していたと推定される。

(2) 第一審原告亨主張のように、信号待ちをしていた車が発進する場合、発進の位置の差が発進開始時間に若干の差をもたらすことはあつても、その差は、先行車と後続車が加速を終わつて通常の速度に達した時点で車間距離として安定するものであり、その距離の差は、市街地では五ないし一〇メートル程度である。

なお、被害車と目撃車とは車の性能に差はないが、被害車には二人が同乗していて荷重が異なり、その加速性には相当の開きがあるので、速度比較の際考慮すべき要素である。

(3) 本件事故の直接の原因探求に必要なものは、右のようにして算定される区間の平均速度ではなく、本件事故直前の被害車の速度であるが、その最も有力な資料は、被害車が目撃車を追い越し、加害車と衝突するに至るまでの事故直前の被害車、目撃車の関係位置である。ところで、乙第二号証と乙第四号証の各見取図において、目撃車(庭野)の指示説明に矛盾はない。すなわち、急制動の動作は、「危険を感じて」から若干の反応時間を要するから、目撃車が自身の危険を感じたのは、乙第二号証の見取図の「危険を感じて急制動した地点」(第一審原告らは、これを「衝突を目撃した地点」であるかの如く誤解している。)よりも追越地点側に寄つた地点であり、かつ、目撃車は、「自身の危険」を感ずる前に、その原因である「被害車と加害車の接触の危険」を目撃している筈である。そうすると、その地点は、乙第四号証の見取図のとおり、目撃車が追越地点から一二・二メートル走行したところであり、その前方一一・一メートルのところに被害車がいたのであるから、これにより両車の速度比を算出すると、被害車が約一・九倍となる。

(4) 被害車は、六・二メートルのスリツプ痕を残しており、その〇・八秒前後前の位置で危険を感じて制動に入つた筈であるから、仮に被害車の速度を時速五〇キロメートルとすると、危険を予測したのは、衝突地点の一七・三メートル前であつて、被害車は、加害車の緩徐な減速(急ブレーキ痕はない。)に合わせて十分減速することが可能であつたし、更に被害車が制限速度時速四〇キロメートルを遵守していれば、被害車は、制動とハンドル操作により少なくとも衝突を回避しうる程度に減速し得た筈である。したがつて、被害車の制限速度超過が本件事故の主要な原因である。

(5) 後続車は、先行車もしくはその周辺に起こり得る色々の変化を予測し、常にそれに対応し得るような用意のもとに適当な車間距離を置いて進行すべきである。

しかるに、第一審原告亨は、本件事故の模様が判らないというのであつて、未熟な技量で高速疾走していたものである。

(6) 車両が前車を追い越す場合は、前車の右側を通行しなければならず、制限速度を超過して走行する車は、当然に他の車両を追い越す訳であるから、前方に車両を認めたならば、直ちに右側からこれを追い越す準備に入るか、直ちに速度を緩めて前車と適当の車間距離を取り追突の危険を避けなければならない。

しかるに、被害車は、速度を緩めることなく、車間距離もとらずに加害車の左後方に追い付き、違法な左側追越しの進路を選択したものである。

(7) 被害車は、ウインカーを目撃してからブレーキまで約一〇メートルを空費している。これは、ウインカーを無視してその左側を追い越そうとしたか、スピードの出し過ぎのため急ブレーキまでの距離が延びたか、あるいは全くウインカーに注意を払つていなかつたかの何れかである。

(8) 衝突により、被害車の同乗者原達夫が約二〇メートルも飛ばされていることからも、衝突時における被害車の高速は明らかである。

(加害車の後方確認、左転把、急停止)

(1) ルームミラー、サイドミラーは常時注視すべきものではなく、前後車両のスピードを勘案しながら前方に危険のない範囲において「べつ見」を繰り返して後側方の状況を把握するものであるから、その間隙に異常の速度で接近するオートバイ等が時に確認から脱落することは止むを得ない。本件のように、追尾してくるオートバイとの距離が五メートル以上もあり、それが通常の市街地通行のスピードであれば、ウインカーを点灯して緩徐に左に寄れば、後続車は、スピードを緩めるか、右側を追い越すかの処理を措るのは容易である。

しかるに、被害車は、高速のため極めて近距離になるまで加害車に気付かず、かつ、加害車のウインカーにも気付かずに加害車の左側を追い越そうとして、衝突直前までブレーキの操作もしなかつたのである。

(2) 事故直後の加害車の位置に照らし、加害車は、一〇メートルの進行について六〇ないし八〇センチメートルの幅寄せをしたに過ぎず、かつ、左側に一・六ないし一・八メートルの余地を残して停止しているから、到底、急激な幅寄せとはいえない。

本件道路は屈曲しており、高速で追い上げてくる被害車の発見が困難であったと思われるが、先行車としては、それでもなお左側に併進している二輪車があるかもしれないことを考えるならば、その通り抜けの余地を残しながら最終的に左側を確認すれば、後続車(左側車)に対する配慮は、尽くされているといえる。

本件では、加害車は、左側に一・六メートルの幅を置いて停車しているから、通常ならば、二輪車が十分通り抜ける得る間隔を残していたのであつて、加害車に過失はない。

(3) 加害車のスリツプ痕は、左右前後輪いずれも長さ一メートル前後で、右スリツプ痕は、衝突で押されたためにできたものかもしれないし、加害車が急ブレーキを踏んだのは、本件衝突後であるから、いずれにしても加害車が急停車したことはない。

第三  当事者双方の証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第一  第一審原告らの請求に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正する他は、原判決の理由説示一ないし四と同一であるから、これをここに引用する(ただし、「享」をすべて「亨」と訂正する。)。

一  原判決六丁表九行目の「甲第一一号証」の次に「第一二号証」を、同一〇行目の「第八号証」の次に「第九号証」を各加入する。

二  同六丁裏六行目から同七丁表一行目までを次のとおり改める。

「第一審原告亨は、原達夫所有の被害車(自動二輪車)後部に原を同乗させて運転し、第一走行帯中心よりやや歩道寄りを制限速度時速四〇キロメートルのところ時速約五〇キロメートルで走行し、他の自動二輪車(目撃車)を追い越して、先行する立屋運転の加害車(タクシー)の左後部約五メートルに接近したが、そのとき加害車は、左ウインカーを点滅させ、五メートルぐらい進んで、左へ寄り制動した。第一審原告亨は、衝突を避けるため左へ転把制動したが及ばず、加害車の左前ドアー及びフエンダー部分に衝突して転倒した。」

三  同七丁裏一〇行目の「立屋清には、」の次に「客を乗せるため歩道の方に早く接近しようとするあまり、」を加入し、同八丁表四行目の「走つていた」を「走り、被害車はその左後方に追尾していた」と改め、同五行目の「原告岩居亨も、」の次に「前記のとおり、制限速度を超過して走行したまま、」を加入し、同末行の「であつた」を「であり、かつ、後記のようにウインカーを見てからの対応にも落度があつた。」と改める。

四  同一二丁裏末行の「認めない。」の次に「ただし、現在及び将来の障害者用自動車改造費六八万三二六五円」を加入し、同一三丁表六行目の「成立に争いがない」から同九行目までを次のとおり改める。

「当審における第一審原告岩居はつ江本人尋問の結果により成立を認める甲第一四号証及び同本人尋問の結果によれば、第一審原告亨は、自動車を身体障害者用に改造するのに、昭和五七年三月に中古車を改造して一一万五〇〇〇円、同五八年一〇月に新車に買い替えて一三万円を支出したことを認めることができる。そこで、右二回の改造のうち、新車についての改造及びその費用一三万円を相当な支出と認める。

更に、右甲号証によれば、販売店は、改造自動車の耐用年数を四ないし五年としているが、税法上、普通に使用する新車の耐用年数を六年としていること及び改造車が特にいたみが激しいとの資料がないことに照らし、改造自動車の耐用年数を六年とする。

したがつて、第一審原告亨は、昭和五八年一〇月(二一歳)から生涯(当裁判所に顕著な第一五回完全生命表により、二一歳男子の平均余命五三・六歳を前提にする。)のうちに、六年毎に今後八台の新車を買うものとし、その都度、障害者用に改造する費用一三万円を要するものと認める。

しかして、右損害の本件事故時の現価を算出するに際しては、右平均余命五三年(少数点以下切り捨て)の間、便宜、毎年一三万円の六分の一ずつを支出するものとみなして、この場合は六年毎の支出を便宜一年毎の支出に細分したのであるから、年五分の割合による年別ライプニツツ係数ではなく年別ホフマン係数(25.5353)を用いて中間利息を差し引くこととする。

130,000÷6×25.5353=553,265

よつて、現在及び将来の障害者用自動車改造費用として前記一三万円と右五五万三二六五円との合計六八万三二六五円を認める。」

五  同一四丁表冒頭から八行目までを次のとおり改める。

「原審における岩居亨本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第八号証、当審における岩居はつ江本人尋問の結果によると、第一審原告らは、当初、従来の居住住宅について、車庫、便所の改造などを考慮していたが、自動車を車庫に入れたまま第一審原告亨が車椅子から降りて自動車に乗るためには、かなり広い車庫を必要とするため、中古の家を購入して、これを身体障害者用に改造し、そのために三〇〇万円位の費用を要したことを認めることができる。

そうだとすると、第一審原告亨は、自宅改造費として、事故時現価で、その主張する八〇万円を下らない金額が必要であつたと認めることができる。」

六  同一四丁裏六行目に次に行を改めて次のとおり付加する。

「前掲各証拠及び当審における第一審原告岩居はつ江本人尋問の結果によるも、第一審原告亨は、入浴や用便の際のほか、自動車の乗降に際して他人の手助けを必要とするが、前記認定のとおり、自動車を自由に使用でき、歩行装具を使つて歩行することもできる程で、下半身以外は、普通人と変わらないことが認められ、その不便さは大きいけれども、身体全体からみると一定の範囲のものともいえるし、かつ、現在見込まれる今後の労働、福祉環境のもとにおいて、一生涯、労働する能力が全くないものとは言いきれないものの、後遺症の程度は、後記のとおり、労働能力喪失率を一〇〇パーセントと見ざるを得ないことや認容する後遺症慰藉料額などに照らし、特に将来の看護料を認めなければならないものと言うことはできない。」

七  同一五丁表五行目末尾の次に次のとおり付加する。

「成立に争いのない甲第一三号証、当審における第一審原告岩居はつ江本人尋問の結果によるも、右認定を覆すものではない。」

八  同一五丁表六行目から同裏一行目までを次のとおり変更する。

「14 将来車椅子費用 八六万九〇七七円

当審における第一審原告岩居はつ江本人尋問の結果及び同尋問の結果により成立を認める甲第一五号証並びに前記(原判決)三、8で認定した事実によれば、第一審原告亨が必要とする車椅子は、一台一〇万円で、その耐用年数が三年であること、第一審原告亨の後遺症に照らし、生涯、車椅子を要することが認められる。

そうだとすると、第一審原告亨は、前記(原判決)三、8掲記の証拠によれば、同認定の車椅子を購入したのが昭和五七年二月であるから、第一審原告亨は、同年二月(一九歳)から平均余命(前同、一九歳男子の平均余命五五歳、少数点以下切り捨て)の間、三年毎に一〇万円の車椅子を購入しなければならないことになる。

そこで、自動車改造費用の現価算定の場合と同様の方式に従い、毎年一〇万円の三分の一ずつの支出をするものとみなして、年五分の割合による年別ホフマン係数(26.0723)を用いて中間利息を差し引いて車椅子費用の現価を算出する。

100,000÷3×26.0723=869,077

なお、本訴上、歩行装具の将来の必要性、耐用年数等について的確に把握する証拠はない。」

九  同一五丁裏七行目末尾の次に次のとおり付加する。

「更に本件において、次のとおり、逸失利益を、その主張に従い第一審原告亨が高校を卒業する筈であつた年から就労(なお、第一審原告亨が大学にまで進学する筈であつたことの立証はない。)したものとして算出しているのであるから、特に学業を妨げられたことについて休業損害なるものを認める余地はない。」

一〇  同一五丁裏八行目の「六一九万三四六四円」を「六六〇一万四一五四円」と改め、同一六丁表一〇行目の「原告岩居亨は」の次に、「、現在見込まれる将来の労働、福祉環境に照らし、生涯に亘つて全く働くことが出来ないものとは断定できないけれども、さりとて将来に亘る労働能力を的確に確定することはできないし、前記のとおり、第一審原告亨の将来の看護料を認めないことと相俟つて、後遺障害第一級に該当するものとして、」と加入する。

一一  同一六丁裏一行目から六行目までを次のとおり改める。

「第一審原告亨は、昭和三七年七月二九日生まれで、昭和五六年三月に高校を卒業して、満一八歳の同年四月から就労して六七歳まで四九年間稼働可能と考え、当審において主張する昭和五六年度賃金センサスにより、全産業企業規模計全年齢平均男子の年収三六三万三四〇〇円(この数字は、当裁判所に顕著である。)を得ることができたものとし、この場合は、自動車改造費等の場合と異なり、中間利息の控除につき年五分の割合による年別ライプニツツ係数(18.1687)を用いて逸失利益の現価を算出する。

3633,400×18.1687=66,014,154」

一二  同一七丁表二行目の「一一万六三九六円」を「三万三二五六円」と改め、同三行目から六行目までを次のとおり改める。

「成立に争いのない甲第九、第一七号証、当審における第一審原告岩居はつ江本人尋問の結果によると、第一審原告亨は、本件事故により、被害車両である原達夫所有の自動二輪車を破損され、その修理に一六万六二八〇円を要し、原に対し、その七割である一一万六三九六円を支払つたことが認められる。

ところで、右被害車両の損害は、所有者である原の損害であつて、これを第一審原告亨と第一審被告(立屋)が、その過失割合によつて負担すべきものであるところ、後記のとおり、その過失割合は、五分五分であるから、第一審原告亨は、その支払つた一一万六三九六円のうち修理費用の五割である八万三一四〇円を超える三万三二五六円を損害ないし不当利得として第一審被告に対し請求しうるものというべきである。

なお、被害車両の修理費を右のように理解すべきであるから、第一審被告の損益相殺の主張は、理由がない。」

一三  同一七丁表八行目から同丁裏一行目までを次のとおり改める。

「第一審被告は、第一審原告亨が加害車、目撃車の二倍くらいの高速で走行しており、本件事故は同原告の一方的過失に基づき発生したものであると主張し、警察の実況見分書等から右三車の走行距離を割り出して相互の速度を比較するという手法を採つた上で種々主張しているけれども、この手法は、被害車、加害車、目撃車の各発進時の状況、その時間的差異、各交差点の信号の作動差異、加害車の速度、現地における指示の誤差について不確定要素が多く、これを採用することはできない。そして、本件証拠関係上、被害車の速度については、それが加害車、目撃車よりは速かつたという程度には認められるものの、前記認定の時速約五〇キロメートルとする以外にこれを的確に確定することはできない。また、乙第二号証によると、同乗の原は、衝突のはずみで二〇メートル近く飛ばされて道路に転倒したことが認められ、これは被害車が衝突の際又はその直前に急制動をかけたことを窺わせるにせよ、直ちに第一審被告主張のような被害車の高速を推定させるものではない。

しかして、第一審原告亨には、前記のとおり、制限速度を超過する速度で走行して加害車を追い上げ、自車の速度に応じた適切な車間距離を保たず、これに接近し、かつ、加害車の左ウインカーを見てから直ちに減速して右側に回避する等の措置をとることなく、車線変更をして来る加害車がなお進行するのを見て、ほとんどその停車直前に急制動をかけたもので(後段は、前記(原判決)理由二、1及び前記一で追加の証拠を総合して認める。)、いわば追突するような形で本件事故に遭遇しているなど本件事故の発生に大きな寄与をした事実があるから、第一審原告亨の過失割合を五割と認めるのが相当である。

そうだとすれば、これまで認定した、前記物損を除く損害の合計額は九一六一万九八〇三円となるから、それから五割を減ずると四五八〇万九九〇二円となり、これから当事者に争いのない既払額合計二二五九万八二一九円(第一審原告亨主張の支払金目録の「総合計」の数値は誤記と認める。なお、同目録のうち、自賠責保険金二一二〇万円を除き第一審被告が支払つたとする一三九万八二一九円は、前記認定(原判決理由三、1)の同被告が同保険からの償還分を含めて治療機関に支払つた一七二万一八四九円と第一審原告亨に直接支払つた六万四一四〇円から、同保険の償還分三八万七七七〇円を差し引いた額に合致する。)を差し引くと、残額は二三二一万一六八三円となり、これに前記物損三万三二五六円を加えると損害額合計は、二三二四万四九三九円となる。」

一四  同一七丁裏二行目及び五行目の「三五〇万円」を「二〇〇万円」と改める。

第二  以上によれば、第一審原告亨の請求は、二五二四万四九三九円及びこれに対する不法行為の日である昭和五四年一二月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべく、同岩居肇、同岩居はつ江の各請求は、各人につき七五万円とこれに対する前同日から前同遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきところ、右の限度を超えて第一審原告亨の請求を認容した原判決は不相当であつて一部取り消しを免れず、第一審被告の第一審原告亨に対する控訴は右の限度で理由があるが、第一審原告亨の控訴は理由がなく、その余の第一審原告の請求について右と同旨の原判決は相当であつて、第一審被告のその余の第一審原告に対する控訴は理由がない。

よつて、以上の趣旨で、第一審被告の控訴に基づき第一審原告亨の請求部分につき原判決を変更し、第一審原告亨の控訴及び第一審被告のその余の控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八六条、三八四条、一九六条、九六条、九五条、九二条、九三条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小堀勇 吉野衛 山崎健二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例